
麹とは?
海外で麴づくりをしていると、「麹って何?」と聞かれることがよくあります。
その時は「カビの生えたお米で、醤油やサケを作るときに重要な材料のひとつだよ(もちろん無害なカビだよ)」と答えます。(5秒以内で簡単に、味噌すら知らない外国人に麹を説明する良い方法があればぜひシェアしてください!)
麹に馴染みのある私達日本人でも「麹って何?」と改めて聞かれると、意外と説明に困ってしまいませんか?ここで麹についての理解を少しずつ深めながら、その魅力を一緒に探っていきましょう!麹の世界はあまりにも奥深く、なるべくシンプルにまとめましたが長くなってしまいました。気になるセクションだけ、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

麹とは何か
麹とは、もともと「コウジカビ」というカビの名前です。
カビと聞くと、お風呂場に黒く点々と出てくるものや、野菜や果物にふわふわと生えてくるものを思い浮かべる方が多いかもしれません。そうしたカビの多くは食品を腐らせたりカビ毒を生み出したりと私達にとって有害なはたらきをします。
一方で、コウジカビはカビ毒を全く生産しないことが研究で証明されています。古くは奈良時代から利用されているという説もあるこの菌は、日本の食文化を支える不可欠な存在として日本の「国菌」に認定されています。ちなみに、国の菌を認定しているのは現時点では日本だけだそうです。
麹菌には様々な種類があり、味噌や清酒に使われる「二ホンコウジカビ」、主に醤油に用いられる「ショウユコウジカビ」、焼酎づくりに利用されるものなどがあります。また、花や野菜に様々な品種があるように、二ホンコウジカビの中にも麦味噌に向いたもの、吟醸酒に向いたものなど、異なる特徴を持つ菌株が存在します。市場に出ていないものも含めるとその数は数千種類にのぼるとも言われています。
このコウジカビを穀類、もっとも一般的には米に生やしたものを私たちは利用しています。これが「米麹」、もしくは単に「麹」と呼ばれるものです。
なぜ米に麹を生やすのか
それは麹菌が生み出す酵素の力を利用するためです。
人間は食べ物を口で嚙み砕き、胃や腸で消化・吸収します。唾液や胃液に含まれる酵素が食べ物を体に吸収できる形に分解してくれるのです。
それに対し麹菌には口も消化器官もありません。その代わりに米の中へと伸ばした菌糸の先から酵素を分泌し、周囲の米を分解して栄養分を吸収します。つまり私たちが体内で行っている消化のプロセスを体の外で行っているイメージです。
麹はこれまでに確認されているだけでも100種類以上の酵素を生み出すと言われています。それらの酵素が大豆や米などの原料を分解し、醤油や味噌といった発酵食品へと姿を変える手助けをしているのです。

酵素とは何か

酵素とは、物質を変化させる”触媒”として働くタンパク質の分子です。その役割はよく「ものを切る道具」に例えられます。例えば紙を切るときにはハサミを、木材を切るときにはノコギリを使うように、酵素にもそれぞれ得意分野があり特定の分子構造を切る専用の道具のようなはたらきをします。
主な酵素の例としては、アミラーゼはデンプンを分解してグルコースやオリゴ糖といった糖に変え、プロテアーゼはタンパク質を分解してアミノ酸に変えます。これらの酵素のはたらきによって麹甘酒のやさしい甘味や、醤油の深い旨味が生まれるのです。
麹はどんなところで使われているのか
麹に含まれる酵素が原料を分解・変化させるということが分かったところで、実際に麹がどのような食品づくりに使われているのかを見てみましょう:
醤油、味噌、みりん、米酢などの酢、甘酒、清酒、焼酎など…
麹は日本の食卓に欠かせない多くの調味料や飲み物を作っています。
味噌と甘酒を除き、これらの食品では麹は”原料”として利用され、最終的な製品には残りません。
しかし近年では麹そのものを食べる楽しみ方も提案されています。代表的な例が塩麴や醤油麹などの麹をそのまま活かした発酵調味料です。さらに、デンマークの三ツ星レストランではローストした麦麹のソースをじゃがいもに合わせたレシピが考案されていたり、ロンドンのサケ醸造所のタップルームでは揚げ物に砕いた麹を塩やスパイスと混ぜたシーズニングが添えられていたりと和食の域を越えて活用されています。

米麹ができるまで

ここでは、米麹がどのように作られているかを簡単にご紹介します。
① 浸水
洗ったお米をたっぷりの水に浸し、しっかり吸水させます。
② 蒸し
吸水したお米を蒸します。普段のご飯よりも硬めに仕上げるのがポイントです。
③ 種付け
蒸したお米をおよそ40℃まで冷まし、種麹をまんべんなく振りかけて混ぜます。
④ 保温
布で包んだお米を保温庫に入れ、温度と湿度を保ちながら約48時間発酵させます。この間に発酵熱で温度が上がりすぎると麹菌が弱ってしまうため、定期的に温度を確認し手入れを行います。
⑤ 出麹(でこうじ)
お米の表面が白く覆われ、栗のような香ばしい香りがしてきたら完成です。温度を下げて発酵を止めます。
この状態が「生麹」で、低温で乾燥させると「乾燥麹」になります。
材料を準備してから米麹ができあがるまで、およそ3日間。
手間は掛かりますが菌が成長していく様子を見るのは子どもの成長を見守るようで愛おしいです。
麹を利用するメリットについて
麹を利用することには、主に三つの利点があると感じています。
美味しさ、便利さ、そして健康です。
味噌や醤油を手づくりするとその味の複雑さと深い旨味に驚かされます。特に日本の調味料が手に入りにくい海外では、高品質な調味料を常備しているだけで生活の質がぐっと上がるような気がします。
海外のレシピで味付けの記載がなく困った経験がある方も多いのではないかと思いますが、麹調味料を入れるだけでビシッと味が決まります。また、スーパーのお肉でも麹調味料を絡めて冷蔵庫で寝かせておけば焼くだけでしっとりとした旨味たっぷりの一品が出来上がります。麹は忙しい日々の救世主でもあるのです。
麹で柔らかくなった食材は消化・吸収されやすく、酵素が生み出したオリゴ糖や麹菌自体も腸内の善玉菌のエサになります。さらに、麹菌はビタミンB群やミネラルも生成することが知られており、疲労回復などに役立ちます。私自身、麹を取り入れるようになってからお通じの改善や肌の調子の良さを実感しています。麹は薬ではありませんが、海外で美味しく健やかに生活する上で心強い味方になってくれる存在だと思っています。

麹を始めてみたいと思った方へ

麹について少し詳しくなったところで、実際に使ってみたいと思った方へ。暮らしの中で麹を楽しむいくつかの方法をご紹介します。
何かを手づくりしてみたい方には味噌づくりがおすすめです。
少し頑張って仕込みを済ませたあとは時間と麹が美味しい味噌に育ててくれます。作り方は[こちら]で詳しく説明しています。
もう少し手軽に手づくりをしたい方には醤油麹がおすすめです。
お好みの麹に醤油を加えてかき混ぜるだけ。使い方も醤油と同じなので分かりやすいです。なんとマーマイトの代わりとしても使えます。気になる方は[こちら(準備中)]を覗いてみてください。
「作るのは少し不安…」という方はすぐに使える麹調味料を試してみるのがおすすめです。[ショップ]では使いまわしのよい麹調味料を取り揃えています。塩や醤油、コンソメと置き換えるだけで簡単に麹が取り入れられます。詳しい使い方は[こちら(準備中)]をご覧ください。
味噌も麹調味料も、和食に限らずイギリスの家庭料理で活躍するシーンが沢山あります。今後さまざまなレシピもご紹介していきますのでぜひ一緒に麹の輪を広げていきましょう!